経営管理ビザの更新と永住申請|決算成績はどこまで見られるのか?

皆さん、こんにちは!
中国語を話せる行政書士、井上義博です。
経営管理の在留資格を取得し、日本で会社を設立して事業を営む方にとって、自社の経営状況は常に大きな関心事だと思います。そして、それと同じくらい気になるのが自身の在留資格を継続的に更新できるかということでしょう。日頃の業務において、私はよく、こういった問い合わせを耳にします:
- 「最終黒字ですが、売上・純利益が少ない、更新が心配だ。」
- 「赤字が出ているけど、更新はできるの?」
- 「直近期は黒字だが、前期分が赤字、永住申請できる?」
まず、結論から申し上げますと、決算書は経営管理ビザの基礎です。経営管理の在留資格を更新する場合や、永住申請する場合において、会社の成績表ともいえる決算書は、事業の安定性や継続性を確認するための極めて重要な資料です。
ただし、決算成績が良ければ必ず安心というわけではありません。
反対に、赤字があるからといって、直ちに不許可になるとも限りません。
今回は、経営管理ビザの更新や永住申請における原点ともいえる「決算書」について、決算書の基本的な見方、更新時における決算成績の考え方、そして決算書と永住申請の関係性の3点に分けて解説します。
少し長くなりますが、経営管理ビザの更新や、将来の永住申請を考えている方にとって重要な内容ですので、どうぞお付き合いいただければ幸いです。
決算書の基本的な見方
最初に、決算書の見方について、簡単に説明します。
経営管理ビザの更新において、ご自身で細かい会計処理まで理解する必要はありませんが、会社の経営状況を把握できることは大切です。次の書類をご自身で見て、大まかな内容を把握できるようにしましょう。
貸借対照表
貸借対照表とは、決算時点における会社の財政状態を示す書類です。平たく言えば、その時点で会社にどれくらいの資産があり、どれくらいの負債があるのかを確認する書類です。会社の「財務体力」を見る資料ともいえます。
貸借対照表では、左側に「資産」、右側に「負債」と「純資産」が記載され、資産の合計額と、負債・純資産の合計額は一致します。
ここで特に注意したいのが、純資産の部分です。会社の資産よりも負債の方が大きい場合、純資産の部がマイナスになります。これは、会社の全財産をもってしても負債を解消できない状態であり、いわゆる「債務超過」と呼ばれる状態です。経営管理ビザの更新では、この債務超過の有無が重要な確認ポイントになります。
損益計算書
損益計算書は、その事業年度における会社の経営成績を確認する書類です。
一般的には、まず売上高が記載され、そこから売上原価を差し引くことで、「売上総利益」、いわゆる粗利益がわかります。その下には、販売費及び一般管理費が記載されます。ここでは、役員報酬、従業員給与、家賃、広告費、旅費交通費など、会社を運営するために発生した経費が記載されます。ただし、顧問税理士の作成方法や会計ソフトによって、書類の記載方法が変わりますため、各項目がここでは反映されず、販売費及び一般管理費のトータルのみが記載されている場合もあります。
大まかにいえば、売上高から売上原価を差し引き、さらに販売費及び一般管理費などの経費を差し引いたものが最終的な当期純利益又は当期純損失になります。この当期純利益又は当期純損失によって、その年度が黒字であったのか、赤字であったのかを確認することになります。
販売費及び一般管理費内訳書
決算書には、販売費及び一般管理費内訳書が添付されていることがあります。この書類では、役員報酬、給与手当、法定福利費、消耗品費、旅費交通費、地代家賃など、会社がその事業年度に使用した経費の内訳を確認できます。自社が当期でどれぐらいの経費を使用したか、どの項目で一番経費がかかったのかを確認しましょう。
本章まとめ
決算書については、皆さんはこれぐらいを把握できれば、その決算期における自社の経営状態を直感的に捉えることが可能になるかと思います。それでは、経営管理ビザを更新する際に、決算書上の各種数字がどのように審査されるのかについて、次章でお伝えいたします。
更新時における決算成績の考え方
本章において、お伝えしたいことを一言でまとめると、「黒字だから安心ではない」という一言に尽きます。
これまで様々な経営管理の変更・認定・更新申請に携わってまいりましたが、小売事業・卸売事業・貿易事業・コンサルティング事業がほとんどを占めます。そして、更新に際して、必ずと言っていいほど、最初に「今期の決算は赤字・黒字だが、更新できる?」ということを聞かれます。
もちろん、会社の決算成績は黒字に越したことはありません。
ただし、経営管理ビザの更新では、単に最終的な黒字・赤字だけを見るのではなく、本業でどれだけ利益を出せているのか、売上総利益があるのか、経営活動が継続しているのかといった点も重要になります。
なお、会社の経営状況については様々なケースが予想されます。この記事ですべてを取り上げることは困難であるため、以下において、よくある3ケースに分けてご説明いたします。
① 当期黒字であり、貸借対照表上も資産が負債を上回る場合
当期の損益計算書において、黒字状態を達成しており、貸借対照表上でも資産が負債より多い状態です。この場合、経営管理ビザの更新において、第一関門を順調にクリアしていると言えます。
そのうえで、出入国在留管理局の審査官は更に経営者の経営活動実態、今後の事業の継続性、会社及び申請人の法令遵守について審査していきます。これは別のブログ記事でも言及しましたが、法令遵守の点について、ぜひ、気を付けていただきたいと思います。
特に、これから事務所移転や常勤職員の雇用等を行う方は多いと思います。事業所を移転した場合は、出入国在留管理庁に対する所属(活動)機関に関する届出を忘れずに提出しましょう。常勤職員を雇用した場合、社会保険や雇用保険への加入を忘れずに手続きしてください。また、雇用職員が外国人である場合、雇入れ時及び離職時には必ずハローワークに外国人雇用状況の届出を提出しましょう。私が実際に見た案件ですが、これらの手続きや届出を忘れたことで、3年の在留期間から4か月に短縮されるケースもありました。
② 当期赤字であり、貸借対照表上において資産が負債を上回る場合
会社にはまだ一定の財務体力(資産)があるものの、当期の事業成績としては赤字になってしまったケースです。例えば、経営管理の在留資格を取得して、上陸1年目の方です。上陸後、宣伝戦略の策定や実施、取引先の開拓など取引開始に向けた準備活動を行うため、時間を要します。これにより、実際の取引開始が遅れてしまい、売上自体が少ないなか、経費を多く消費してしまい、最終的に赤字の決算成績となってしまいます。
この場合、私はまず「なぜ赤字になってしまったのか」を申請人に確認します。そのうえで、事業活動報告書において、これまでの活動内容の詳細を整理し、取引先と締結した契約書の写しやメールなどの交流記録を添付して更新時に出入国在留管理局に提出します。
また、この時点ですでに取引の商流が確定していることが多いため、もう一歩踏み込んだ説明を行います。特に、本業の売上が発生しており、売上総利益(粗利益)が確認できる場合には、赤字の原因や今後の改善見込みを具体的に説明することが重要です。繰り返しとなりますが、当期が赤字であることだけをもって、更新申請が直ちに不許可になるわけではない、ということをもう一度認識しましょう。
③ 債務超過
貸借対照表上、負債が資産を上回っていることを「債務超過」といいます。ものすごく端的に言うと、会社の元手を上回る損失が積み重なることで、純資産がマイナスになり、今後の事業継続に不安が生じている状態です。単に借入れがあるという意味ではなく、会社の財務体力に大きな不安がある状態といえます。
この場合、更新申請の審査では債務超過の事実について、消極的な評価を受けてしまいます。ただし、債務超過になったからといって、直ちに更新不許可となるわけではありません。まず、出入国在留管理庁が公開している資料において、以下のように整理しています:
| 出入国在留管理庁の基準と判断指針 |
|---|
| 債務超過が1年以上継続していない場合に限り、1年以内に具体的な改善(債務超過の状態でなくなることをいう。)の見通しがあることを前提として事業の継続性を認めることとします。 |
| 直近期末において債務超過ですが、直近期前期末では債務超過となっていない場合には、中小企業診断士や公認会計士等の企業評価を行う能力を有すると認められる公的資格を有する第三者が、改善の見通し(1年以内に債務超過の状態でなくなることの見通しを含む。)について評価を行った書面(評価の根拠となる理由が記載されているものに限る。)の提出を申請者に求めることとし、当該書面を参考として事業の継続性を判断することとします。 |
| 債務超過となって1年以上経過しても債務超過の状態でなくならなかったときは、事業の存続について厳しい財務状況が続いていること及び1年間での十分な改善がなされていないことから、原則として事業の継続性があるとは認められません。 |
これらのケースにおいて、具体的な改善計画を作成して提出し、出入国在留管理局に債務超過の解消見込みと今後の事業の継続性を理解してもらうことが大切です。
実際に、システム開発関連の事業を行う会社で、債務超過の状態となっていたケースがありました。この会社では、すでに開発案件の受注自体はありましたが、システム開発という業務の性質上、開発開始から納品・売上計上までに一定の期間を要します。その一方で、開発に必要な人員の雇用や事務所維持費などの経費は継続して発生していたため、一時的に売上よりも経費が先行し、債務超過の状態となっていました。
このようなケースでは、単に「赤字です」、「債務超過です」と説明するだけでは足りません。まず、締結済みのソフトウェア開発委託契約の写しを提出し、出入国在留管理局に自社の事業におけるキャッシュフローを説明しました。そのうえで、ソフトウェアに関する宣伝資料、ソフトウェア仕様書、開発中のソフトウェアのスクリーンショットも準備し、これらを整理して、これまでの事情と今後の売上見込みを説明する事情説明書を作成して提出しました。更に、顧問税理士に作成していただいた当期の売上試算表も添付し、これらの資料を通して、今期中に債務超過が解消され、事業も軌道に乗り、今後継続的な収益を確保できることを説明・疎明しました。そして、最終的に申請人の更新申請は出入国在留管理局より許可とされました。
これまでのブログ記事でもお伝えした通り、在留資格の審査は1点の事実のみをもって、そのすべてを否定するものではありません。もっとも、債務超過は経営管理ビザの更新において軽く見られる事情ではありません。資料に基づき、改善見込みを具体的に示せるかどうかが重要です。
本章まとめ
経営管理の更新申請に限って言えば、決算成績を審査するのはもちろんのこと、今後更にどういった方法で事業を拡大させる・新たにどうのような事業を展開するかも、事業の安定性・継続性を審査するうえで、大切な内容になります。そして代表者が実際に経営活動を行っているのかという点も加えて、その更新申請を許可とするかどうか、総合的な判断を経て決定されます。
決算書と永住申請の関係
ここですべてを記事にするとかなり長くなりますので、簡単に概論程度の内容をご説明いたします。詳細については別の記事を作成して、後日改めてご案内いたします。
実は、経営管理ビザから永住申請を行う場合、出入国在留管理庁は具体的に何期分の決算書を提出しなければならないと明示していません。実務上は、会社代表者としての生計の安定性や会社の継続性を説明するため、原則として直近3期分の決算書を確認・準備するようにしています。
では、3期分の決算成績については、どのように求められるでしょうか?
決算成績に関していえば、赤字がある場合、生計の安定性を説明するうえで消極的な材料となる可能性が高いです。というのも、永住申請においては「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること(生計要件)」が求められます。そのため、会社が赤字であることはマイナス要因であり、生計が不安定と判断される可能性があります。
特に気を付けていただきたいのは、本業以外の収益による黒字だけでは、会社経営者としての生計の安定性に充足したとは評価されにくいということです。決算書上は黒字であっても、それが本業の売上によるものではなく、不動産売却益や一時的な「雑収入」による黒字化であった場合、事業が安定的であるとは言えません。決算書における判断は単に数字を見るのではなく、会社の本業で継続的に売上や利益を出せているかが大事なポイントです。
また、黒字であっても債務超過の状態が残っている場合、永住申請においては消極的に評価される可能性があります。代表者からの借入れによって資金繰りを維持し、代表者が借入金について債権放棄等を行い、形式的に債務超過が解消された場合であっても、それが本業による継続的な収益に基づく改善でなければ、永住申請において会社の安定性を説明する資料としては弱いと判断されかねません。
つまり、永住申請では、決算書の表面上の黒字・赤字だけでなく、その利益や改善が本業の継続的な収益に基づくものかどうかも重要になります。
最後に
これまでの記事でも繰り返しお伝えしているとおり、経営管理ビザの更新は、決算成績だけで判断されるものではありません。
黒字であっても、事業実態が乏しい場合や、経営者本人が十分に経営活動を行っていない場合、また、必要な届出や社会保険等の手続きに不備がある場合には、更新審査において消極的に評価される可能性があります。
一方で、赤字や債務超過があるからといって、直ちにすべての更新申請が不許可になるわけでもありません。大切なのは、なぜそのような決算内容になったのか、今後どのように改善していくのか、そして会社として事業を継続できる見込みがあるのかを、資料に基づいて具体的に説明することです。
もっとも、経営管理ビザにおいて、決算書が審査の基礎となる重要な資料であることは間違いありません。経営管理ビザの維持、そして将来の永住申請を見据えるのであれば、表面的な個人の収入や単年の利益だけでなく、貸借対照表を含めた会社全体の健全な財務体質を作っていくことが大切です。無理のない範囲で役員報酬を設定し、会社の本業で継続的に売上や利益を確保していくこと。これは、経営管理ビザを安定して維持していくうえで、もっとも基本的であり、もっとも重要な考え方だと思います。
そして、これまで行政書士として活動し、私は度々依頼人から決算書の読み方がわからないと言われることがありました。「今期は黒字だ」と言われて、依頼人自身は売上総利益(粗利益)のみをもって黒字として捉えており、実際の決算書上では販売費及び一般管理費等を差し引くと当期純損失(赤字)となっているケースもしばしばありました。
ぜひ、今回の記事で、決算書の簡単な読み方だけでも把握していただければ幸いです。
最後に、もう一度繰り返しとなりますが、在留資格の申請・更新は単に所定の書類を提出して、許可・不許可の結果を待つものではありません。今回のテーマである経営管理の在留資格に関していえば、出入国在留管理局にご自身の会社の現状、赤字や債務超過である場合はその解消を行うための具体的な方法と時期などを説明して、理解してもらう=「対話」が非常に大切です。
もし、現在ご自身の会社が赤字・債務超過であったとしても、ぜひ、諦めずにご相談ください。私と一緒に解決策を練り、無理のない範囲であなたにとって最善の道を編み出し、日本における生活のささやかな支えとなることができれば幸いです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


